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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)2910号 判決

反訴被告

前川昭仁

原告(反訴被告)

前川眞一

被告(反訴原告)

吉田宗市

ほか一名

主文

一  被告(反訴原告)らは、原告(反訴被告)前川眞一に対し、各自金三四万六五〇〇円及びこれに対する平成二年一二月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴被告前川昭仁は、被告(反訴原告)大生水産輸送株式会社に対し、金二八八万二五〇〇円及びこれに対する平成二年一二月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告(反訴被告)のその余の請求、被告(反訴原告)大生水産輸送株式会社のその余の反訴請求及び被告(反訴原告)吉田宗市の反訴請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は本訴反訴を通じこれを五分し、その二を反訴被告前川昭仁及び原告(反訴被告)前川眞一の負担とし、その余を被告(反訴原告)らの負担とする。

五  この判決は、一、二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  本訴

被告(反訴原告)ら(以下「被告ら」という。)は、原告(反訴被告)前川眞一(以下「原告眞一」という。)に対し金五九万四〇〇〇円及びこれに対する平成二年一二月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴

1  反訴被告前川昭仁(以下「反訴被告昭仁」という。)は、被告(反訴原告)大生水産輸送株式会社(以下「被告大生水産」という。)に対し金七三七万円及びこれに対する平成二年一二月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  反訴被告昭仁及び原告眞一(以下「原告ら」という。)は各自、被告(反訴原告)吉田宗市(以下「被告吉田」という。)に対し金六一八〇円及びこれに対する平成二年一二月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、T字路交差点で発生した自動車事故につき、相互に民法七〇九条(なお、被告大生水産に対する請求については民法七一五条、原告眞一に対する請求については自賠法三条)に基づき損害賠償を求めた事件である。

一  争いのない事実など

1  左記の事故が発生した

(一) 日時 平成二年一二月三〇日午後一〇時三〇分頃

(二) 場所 大阪市此花区常吉一―一―五〇先交差点

(三) 事故車〈1〉 普通乗用自動車(なにわ五六た三二四四号・前川車)

右運転者 反訴被告昭仁

右所有者 原告眞一

(四) 事故車〈2〉 普通貨物自動車(なにわ八八か一四七五号・吉田車)

右運転者 被告吉田

右所有者 被告大生水産(おな、同被告は、被告吉田の使用者であり、被告吉田は本件事故当時、被告大生水産の事業の執行に従事していた。)

(五) 態様 T字路交差点において、黄点滅信号で東西道路を西進していた吉田車と、赤点滅信号で南北道路を南から東へ右折しようとした前川車が衝突したもの。

二  争点

1  事故状況並びに双方の過失割合

(一) 原告ら

被告吉田は制限速度を四〇キロメートルも超過した状態で、徐行せずに本件交差点に進入し、かつ、本件交差点手前で前川車を発見した後も警笛吹鳴を怠り、前川車が右折をしようとしているのにハンドルを右に切るなど不適当な回避措置をとつて、本件事故を発生させたものである。一方、反訴被告昭仁は、本件交差点手前で何回かブレーキを踏んでおり、元々の速度である時速三五ないし四〇キロメートルの半分くらいの速度に減速したと考えるのが合理的である。

したがつて、過失割合は、基本割合である反訴被告昭仁八〇、被告吉田二〇の割合に、被告吉田が減速しなかつたことによる一〇、二五キロメートル以上の速度超過でかつ制限速度の二倍に達する速度違反があるという重過失による三〇以上、また回避措置不適当による一〇を加算修正し、反訴被告昭仁四〇、被告吉田六〇とするのが妥当である。

なお、被告吉田が運転免許取得後一か月も経過しない平成二年一二月二五日に四〇キロメートル超過の速度違反をし、その五日後に本件事故を起こし、更に平成三年一月二五日に三〇キロメートル超過の速度違反を犯すなど速度違反が恒常化しており、この点は過失相殺にあたつて考慮されるべきである。

(二) 被告ら

本件事故の原因は、赤点滅信号で前川車が本件交差点を南から東へ右折する際に、本件交差点手前で一旦停止せず、徐行もせず、衝突するまで全くブレーキを使用せず、右方の安全確認も怠つたまま、交差道路の安全確認が容易な突き当たり路から、漫然と時速三五ないし四〇キロメートルで進入したことにある。被告吉田は、自車を時速六〇ないし八〇キロメートルで進行させ、本件交差点の五〇メートル以上手前から対面信号黄色点滅を確認し、左方から交差点に進入してくる前川車を発見したが、前川車が一時停止するものと思い交差点に進入したところ、前川車が停止線で一旦停止することなく交差点に進入してきたためクラクシヨンをならしたのに、反訴被告昭仁はこのクラクシヨンにも気付かず右折進行してきたため、被告吉田が急ブレーキをかけ、ハンドルを右に切るも及ばず本件事故に至つたものである。

したがつて、過失割合は、基本割合である反訴被告昭仁八〇、被告吉田二〇の割合に、本件交差点がT字路であることによる一〇、反訴被告昭仁に一旦停止義務違反、徐行義務違反、右方不注意などの安全運転義務違反があることによる一〇ないし二〇を反訴被告昭仁側に加算し、被告吉田のスピード違反による一〇ないし二〇を被告吉田側に加算すると、反訴被告昭仁九〇ないし一〇〇、被告吉田〇ないし一〇となり、吉田車が大型車であることを譲歩しても反訴被告昭仁の過失は八割を下らない。

2  損害額

第三争点に対する判断

一  事故状況並びに双方に過失割合

1  事実関係

(一) 前記争いのない事実に、証拠(甲七ないし甲一〇、甲一九ないし甲二八)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 本件事故現場は、市街地を東西に通じる道路とそこから南に通じる道路が交差するT字路交差点(通称常吉一丁目交差点・本件交差点)上である。

本件交差点には、信号機は設置されているが、本件事故当時は、東西道路側が黄色点滅信号、南北道路側が赤色点滅信号になつていた。

東西道路は、車道幅員が一五・四メートルで、南側に幅員六・二ないし七・〇メートルの歩道が設けられている。一方、南北道路は一四・二メートルで、道路端から一・四メートルのところに車道外側線が引かれている。本件事故現場付近の道路はいずれも平坦にアスフアルト舗装された道路で、本件事故当時路面は乾燥していた。

本件交差点の見通しは、東西道路前方に対しては良いが、交差道路方向に対しては不良である。

本件事故現場付近の道路の最高速度はいずれも時速四〇キロメートルに制限されており、本件事故の二〇分後から開始された実況見分の当時、車両交通量は三分間に東西道路一二台、南北道路四台であつた。

(2) 被告吉田は、吉田車(最大積載量三トン、車両重量四・七二トンの冷凍貨物自動車)を時速八〇キロメートルで運転し、東西道路を東から本件事故現場に至つた。そして、本件事故現場手前四六・一メートルの地点(〈1〉)で対面信号黄点滅を認めたが、そのまま進行し、本件衝突地点手前二八・〇メートルの地点(〈2〉)に至つて、左前方三四・七メートルの本件交差点南詰め横断歩道北側(〈ア〉)を北進してくる前川車を認め、急ブレーキをかけるとともにハンドルを右に切つたが、本件衝突地点において自車前部を〈イ〉地点にある前川車右側面に衝突させ、自車は一八・四メートル離れた〈4〉地点に左横倒しで停止し、前川車は〈ウ〉に停止した。

なお、吉田車の同乗者である岡は、前川車発見の状況について、本件交差点手前で左方道路から右折進行してくる前川車を発見し、岡があつと叫ぶと、そのとき被告吉田も前川車を認めたらしく岡とほぼ同時にあつと大きな声を出し急いで急ブレーキを掛けるとともにハンドルを右に切つた、前川車を発見したとき被告吉田はクラクシヨンを鳴らしていたように思うと警察官に対して供述している(甲二三・四項、九項)。

(3) 反訴被告昭仁は、前川車を時速三五ないし四〇キロメートルで運転し、南北道路を南から本件事故現場に至つた。そして、本件交差点の対面信号が赤色点滅であつたのに、一時停止することになく本件交差点に進入し、これを右折しようとして本件事故に至つた。

なお、本件交差点に進入する際の前川車の状況について、前川車の後方三〇ないし四〇メートルのところを距離を保つて進行してきた山崎嘉哉は、交差点に進入する手前では何回かブレーキを踏んでいたらしく、ときどき前川車のブレーキランプが点灯しては消えたりするのを確認している、しかし停止線を過ぎたあたりからは前川車のブレーキランプは全く点灯しなかつたので、反訴被告昭仁は停止線付近から衝突するまで全くブレーキペダルを踏んでいなかつたものと思う、今回の事故の原因は反訴被告昭仁が停止線で一時停止せずにかつ右方に対する安全確認を怠つたまま時速三五ないし四〇キロメートルの速度のままで交差点に進入したことであり、被告吉田の側も減速徐行し、左方に対する安全確認をすべきであつたと思うと警察官に対して供述している(甲二一・三項、六項)。

(4) 本件事故により、双方車両は損傷し、反訴被告昭仁は脳挫傷、前川車の同乗者である前田登久子は脳挫傷、右硬膜下血腫など、被告吉田は左大腿打撲、吉田車同乗者である岡誠は両足切創の傷害を負つた。

(5) 被告吉田は、運転免許取得後一か月も経過しない平成二年一二月二五日に四〇キロメートル超過の速度違反をし、その五日後に本件事故を起こし、更に平成三年一月二五日に三〇キロメートル超過の速度違反をした。

(二) なお、被告らは、本件交差点の五〇メートル以上手前から左方から交差点に進入してくる前川車を発見したが、前川車が一時停止するものと思つていた、また、前川車が停止線で一旦停止することなく交差点に進入してきたのを認め、クラクシヨンをならしたと主張するが、本件交差点の五〇メートル以上手前において前川車を発見していたことについては被告吉田の警察官に対する供述調書中には記載がなく、むしろ前認定の吉田車の同乗者である岡の警察官に対する供述によれば、前川車を発見したのは急ブレーキを掛け、ハンドルを右に切る直前であり、かつ、クラクシヨンを鳴らしたのはその際のことであつたことが認められ、前川車を本件交差点の五〇メートル以上も手前で発見してたとは認めがたいし、また、クラクシヨンをならした時には、既に事故を回避できない段階に至つていたものと考えられるから、右主張は採用できない。

一方、原告らは、本件交差点手前で何回かブレーキを踏んでおり、元々の速度である時速三五ないし四〇キロメートルの半分くらいの速度に減速したと考えるのが合理的であると主張するが、ブレーキがある程度の時間継続したものであつたことを認めるに足りる証拠はなく、むしろ、前認定のように、後続車運転者山崎嘉哉は、今回の事故の原因は反訴被告昭仁が停止線で一時停止せずにかつ右方に対する安全確認を怠つたはは時速三五ないし四〇キロメートルの速度のままで交差点に進入したことにあると思うと警察官に対し供述していることに照し採用しがたい。

2  判断

以上に認定の事実によれば、反訴被告昭仁は、対面信号赤色点滅の状態で、一時停止せず、かつ、右方に対する安全確認を十分しないまま、時速三五ないし四〇キロメートルの速度で本件交差点に右折進入したことになるから、本件事故の発生について大きな過失があることになる。

一方、被告吉田としても、対面信号黄色点滅の状態で、減速せず、左方に対する安全確認を十分しないまま、時速八〇キロメートルで本件交差点に進入したことになるから、本件事故の発生についてかなりの過失があることになる。

そして、右認定事実から認められる双方の過失の内容、程度、本件交差点がT字路交差点であることその他の衝突場所の道路状況などを考えあわせると、双方の過失割合は、反訴被告昭仁六五、被告吉田三五と認めるのが相当である。

二  損害について

そこで、損害について検討することにする。

1  原告前川眞一の損害について

(一) 車両損害(請求額九九万円)について 九九万円

同原告が前川車の所有者であることは当事者間に争いがなく、甲三五によれば、前川車の損害が右主張どおりであることが認められる。

(二) 過失相殺

前記認定の反訴被告昭仁の過失割合六五パーセントを被害者側の過失として斟酌し、前記認定の損害額から減ずるとその残額は、三四万六五〇〇円となる。

2  被告吉田の損害について

(一) 治療費(請求額五万三一四〇円) 五万三一四〇円

乙2及び乙3によれば、同被告の治療費が右主張どおりであることが認められる。

(二) 過失相殺

前記認定の被告吉田の過失割合三五パーセントを斟酌し、前記認定の損害額から減ずるとその残額は、三万四五四一円となる。

(三) 損益相殺(主張額四万六九六〇円) 四万六九六〇円

前川車に付されていた自賠責保険金から、四万六九六〇円が支払われたことについては原告らは明らかに争わないので認めたものとみなされる。そして、右争いのない金額を既払額として損益相殺すると残額は存しないことになる。

3  被告大生水産の損害について

(一) 車両損害(請求額四七六万八七五〇円)について 四〇五万円

同被告が吉田車の所有者であることは当事者間に争いがなく、甲一〇、甲38、検甲1及び2の各1ないし3、乙1及び証人大谷迪也、証人内田昌男の各証言によれば、同車両は、同被告代表者が代表取締役をしている株式会社三和ヂーゼルから、同被告が平成二年六月一〇日六七五万円で購入し、同月二一日初度登録された自動車であり、本件事故までに取得後六か月あまりが経過していたこと、同車は、シヤーシーの上に冷蔵冷凍式ボデイ及び一六五万円の冷凍設備を装着した総排気量六・四八リツトルの特装車であること、同車は本件事故によりフロントキヤブボデイから後部荷台にかけて損傷したが、冷凍機には損傷は及ばなかつたこと、右冷凍機の移設には一〇万円の費用を要すること、原告眞一加入の保険会社の依頼した内田昌男アジヤスターは、吉田車の時価額を、推定新車価格を五四〇万円とし、耐用年数四年の場合の経過期間七か月未満の定率法による償却率七五パーセントを乗じた四〇五万円と見積もり、また、修理には四一五万円を要すると見積もつていること、再利用可能な冷凍設備の分を除外し、移設費用一〇万円を加えた吉田車の新車としての取得価額は、株式会社三和ヂーゼルの見積に基づき算出すれば五二〇万円となり、むしろ内田昌男アジヤスターの推定新車価格より低くなること、以上の事実が認められる。

ところで、証人大谷迪也の供述中には、吉田車は納車して半年あまりであるから新車の一割減程度であるとする部分もあるが、信用し難く、また、吉田車の法定耐用年数が五年又は六年であるして、定率法によつて減価した金額をもつて本件事故当時における車両時価額を認定すべきであるとする被告ら代理人の主張も採用できない(なお、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四〇年大蔵省令一五号)別表第一は特殊自動車を、〈1〉消防者、救急車レントゲン車、散水車、放送宣伝車、移動無線車及びチツプ製造(耐用年数五年)、〈2〉モータースイバー車及び除雪車(耐用年数四年)〈3〉タンク車、じんかい車、し尿車、寝台車、霊きゆう車、トラツクミキサー車、レツカーその他特殊車体を架装したもの(うち、小型車(じんかい車及びし尿車以外については総排気量二リツトル以下のもの)については耐用年数三年、その他のものについては四年)の三つに大別している。そして、〈3〉については「その他特殊車体を架装したもの」という定めを置き、例示列挙であることを明らかにしているのに対し、〈1〉についてはそのような定めを置かない限定列挙であると解されるところ、吉田車は〈3〉にいう、「その他特殊車体を架装したもの」に該当するから、総排気量二リツトルを超える吉田車の法定耐用年数は四年であるということになるから、被告ら代理人の主張はその意味でも採用できない。)し、他に吉田車の時価を認定するに足りる証拠はないから、同車の時価については、内田昌男アジヤスータの見積額である四〇五万円程度であることについては、これを認めることができるものの、これを上回るものと認めることはできないことになる。

したがつて、吉田車の修理には四一五万円あるいはこれを上回る費用を要するが、その時価額は四〇五万円を超えないから、右時価額の限度で被告大生水産の車両損害を認定すべきことになる。

(二) 過失相殺

前記認定の被告吉田の過失割合三五パーセントを被害者側の過失として斟酌し、前記認定の損害額から減ずるとその残額は、二六三万二五〇〇円となる。

(三) 弁護士費用(請求額六二万円) 二五万円

本件訴訟の結論及び審理経過によれば、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用相当の損害額は、右のとおりと認めるのが相当である。

三  結論

以上によれば、原告眞一の被告らに対する請求は、各自三四万六五〇〇円及びこれに対する本件不法行為の日である平成二年一二月三〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で、被告大生水産の反訴被告昭仁に対する反訴請求は二八八万二五〇〇円及びこれに対する本件不法行為の日である平成二年一二月三〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がなく、被告吉田の反訴請求は全て理由がないことになる。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 松井英隆)

別紙 〈省略〉

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